熟田津に 船乗りせむと 月待てば 潮もかなひぬ 今は漕ぎ出でな
(にぎたつに ふなのりせむと つきまてば しほもかなひぬ いまはこぎいでな)
これは万葉集に収められている歌です。額田王の作と言われており、意味は「熟田津(現在の愛媛県松山市は道後温泉付近の海岸線)で船出をしようと月を待っていると潮流も良い具合になった。今こそ漕ぎ出そう」となります。
昔は船旅は命がけ、船出のタイミングを間違えるとたちまち遭難してしまいます・・・。さて、潮の満ち引きのタイミングは船出に限らず、海の恵みを得るためには絶対に知っておかなければなりません。
たとえば、満潮のときに潮干狩り(しおひがり)はできず、漁師は潮の流れや潮の満ち引きを考えて漁に出るタイミングをつかむ必要があるのです。
潮のことを知っていないと大漁のチャンスを得ることはもちろん、漁を終わりにするタイミングもつかめず無駄な作業になってしまう、つまり「潮時」を知っていないと漁で生計を立てることができないのです。
そこから転じて、何かを始めたり終えたりする時の好いタイミング、チャンス(好機)のことを「潮時(しおどき)」と言うようになったそうです。
「潮時」は決断するチャンス到来のときにこそ使う言葉!しかし、最近は「物事を辞めるタイミング」として誤用されていることが多いです。
誤用例がまかり通ってしまうと正しい意味で使っている側が「間違っている」と非難されてしまうことも起こりうるので、本来の意味を知ったうえで時と場合を選んで使うことが大切でしょう。